皐月

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皐月は震える手をどうにか落ち着かせようとシャワーを出した。 生暖かいお湯が皐月の頭上から降り注いできた。 皐月は雨を思い出した。 昨日の朝、降り出した綺麗な雨。 自分を洗い流してくれるような冷たくて洗練された雨。 どこか無常観で、気ままで、自由のままに降ってくる。 昼も夜も関係なく降る。 目を閉じて手首に刃をあてた。 シャワーの音で静寂は破られ、皐月はなにかに飲まれたかのように何も考えられなくなっていった。 右手をすっと動かした。 暫くするとじんわりと痛みが襲う。
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