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君は燃えるような赤い海の中で座っていた。
泣きもせず、声もあげずに……。
ぬくもりの消えゆく双眼を見つめながらただ彼の傍らにいる君は、息をのむほどに、ただ美しかった。
「ゆな、おいで」
僕の声が届くと君の瞳は、そこから動けないことを訴えるように微かにゆれる。
かわいそうに。小さな肩はふるえてた。
僕は愛しい唇に、そっと唇を落とす。
「行こう、全部捨てて。何もかも忘れて遠いところへ逃げよう」
君を捕らえるしがらみから。
僕らを引き離そうとする世界から。
「ゆなは何も心配なんかしなくていい」
――何があってもそばにいて、僕が守ってあげる――
===《 夏の花 》===
僕の朝は新聞配達からはじまる。
オンボロ自転車にムチ打って、商店街の先にある大きな坂をいっきに下るのが日課。
急な坂に自転車は悲鳴をあげるけど、でもそんなの知ったことじゃない。
爽快な朝の風をきる。
次々と移り変わる景色の中で、まったく変わらない日常を肺いっぱいに吸い込む。
気分は上々。
風は追い風。
ぐんぐん加速度を増して遠ざかる、空。
ふと僕は空に飛びこむ錯覚にとらわれた。
――どこからか、ガラスを叩く高い音がする。
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