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今日のスイカはきっと極上の笑みで返ってくる。楽しみで、ゆなに早く見せたくて、自然に足が速まった。
けど、アパートの前で僕は贈り物を落としてしまった。
いとも簡単に飛び散ったスイカを見て、まるで春に咲く花のようだと、そう思った。
ゆなが好きな、桜の花。
無惨に広がった果実は、急に汚いものに思えて憎らしくなった。踏みにじって道の隅にそれをよける。
ゆなのために道端の小さな黄色い花をつんで僕は家に帰った。
その瞬間は、いつも体が凍るようだった。
ドアノブに手をかけて、いっきに開ける。僕を待ってるのはふたつの内のどちらかのはずだった。
ゆなが、天使のような笑顔で出迎えてくれるか。部屋の奥でアイツに殴られて泣いてるか。
でも、その日はどちらでもなかった。
アパートの部屋は静かだった。
(ゆな……?)
不思議に思って、いそいぎ足で中に入る。
ゆなはいた。
僕はほっとして声をかけようとするけど、ただよう異臭に気づいて足を止めた。
ゆなの、目も当てられないくらいに引き裂かれた青いワンピースは、赤い。
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