夏の花

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   無防備にもあらわになった白い足だけがやけに目立って見えた。  それが妖しいほどに、美しかった。    その放心したような視線の先にはアイツがいた。  血の海に沈む、タンスの下に潰れたアイツはもう動かない。    畳の線から先には、絶対に近づいちゃダメだよってゆなにだけいっておいたタンス。  僕がひとつだけ足を切り落としておいた、タンス。      ゆなのかわいい頬に、ひっかき傷ができていた。  華奢な肩に、内股に、胸に体中に、鬱血した赤い花びらをところどころに散らせていた。      ――すごく綺麗だった。      僕は静かに笑った。  笑いながら、ゆなを腕の中に閉じこめた。  ゆなの体をなでる。  生まれた時と、同じままの姿のゆな。    頬のひとつ傷をなめて、首筋にキスをする。  肩に頬ずりをして、力の抜けた白い足の間を割らせて、つま先から付けねまでゆっくり唇をはわす。  ゆなの口の中は少しだけ鉄の味がした。    僕はゆなを守れた栄光に酔いしれた。  声をあげて笑った。泣いた。アイツが消えた。    嗚咽がまじった、心の悲鳴。    僕のゆな。  もう、僕だけのゆな。     ――そうだ、今日の贈り物は夏の花吹雪。  真っ赤に燃える、血色の花。  思い出ぜんぶ家ごと燃やして、今日は 少しだけ泣こう。     ねぇ、父さん 僕はあなたが憎かった 殺してやりたいほど憎くて   きっと 愛してた          夜空に舞うは ちりと灰か  はては、記憶の燃ゆる  夏の桜か……                The,End     see you next .       From,ALee    
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