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気後れしながら二人の話に私は精一杯の返事を繰り返す、私は居てもたっても居られず席を立とうとするとさっきの男性が戻って来てその光景を目の当たりにすると黙って私の両隣に居た若い男性を立たせると耳打ちしそのまま二人を下がらせてしまう、私はようやく静かになり安堵感に胸を撫で下ろしていると男性は私に名刺を差し出す、私はその名刺を受け取ると鞄から茶色の革の名刺入れを取り出し名刺を一枚抜き男性に差し出す。
『永遠(とわ)さん?』
「ええ、永遠です。茉奈さんとお呼びしてもいいですか?
先ほどはすみませんでした。驚かせてしまったことそして二人が・・」
『茉奈で大丈夫です。い・・え、慣れてなくてというよりこんなお店に来るのも初めてでどうしていいか分らず』
私は名刺入れを鞄に戻すと永遠と名乗った男性は申し訳なさそうな表情を向け私は慌てて右手を胸の位置まであげ左右に振り下ろしながら困ったように眉を下げすると永遠は黙ってグラスに氷を入れその中に水を注ぐとそのグラスを白い布で包み私の右手に握らせる。
「茉奈さんのペースでいいのでは?無理に合わせる必要はない、嫌なら嫌と言っていいのですから」
『ありがとうございます・・・私のペースで?』
「はい。貴女のペースで、飲み物は何にしますか?」
私は握らされたグラスを暫く見つめ永遠の言葉を復唱するとグラスに口をつけそのまま水を飲み干すと先ほどまでの緊張がゆっくりと解かれるような気がし続く永遠の言葉にグラスをテーブルに置いた。
『・・・シャンパンを頂けますか』
はいと永遠は笑みを浮かべ頷くとボーイを呼び耳打ちすると視線を私に戻しそれから私と永遠は仕事の事や永遠の飼うペットの猫の話、他愛にない話をしながらシャンパングラスを傾けた。戸惑いと慣れない緊張はどこかへと消え去り私は久しぶりに心から笑えたような気がした、これが作られた幻想だったとしても私にはとても心地よくそして甘い夢であった。
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