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帰航者と渡航者そして見送りや迎に来た人々が行き交う空港ターミナル、周りの雑音さえも遠くに聞こえる程私達を包む空気は静かなものだった。
『やっぱり、私は付いて行けない。貴方と違って私には世界に挑戦する程の実力はありません。』
「茉那ならそういうと予測はついていたよ。俺も賭けてた、茉那についてきてもらえるかどうか」
そう笑う三神灰斗の笑顔は微かに寂しげに見えた。
それから時間まで私達は取り留めの無い会話をくり返す、あの映画が良かった、あの本が良かった。
二人で築いた思い出が蘇る。
時間を知らせるアナウンスが私達を現実に引き戻す、私達にとってこれが別れであることは言わなくてもお互いに理解していた。
肌の暖かさを感じる、お互いが必要な時にすぐに手を伸ばせる距離にいなければ意味のないことを私達は知っている。
だからこそ三神灰斗の渡米は私と彼にとっての別れなのだ。
引き寄せられて彼の腕の中にいる私は涙が溢れそうになってしまう、この暖かさも心音を耳にすることもこの腕の強さも香りも最後なのだと痛感してしまったから。
それを察したのか三神灰斗の私を包む腕の力が強くなる、それと同時に二人の唇が重なった。
さよならは言わなかった、そんな言葉は意味がないと思ったから。
待っているとも頑張ってとも言わずただ彼の背中が消えるのを黙って見詰めていた、空港からのタクシーの車中の窓から旅立つ飛行機が見え堪えきれず私は泣いた、自分の決断に迷いも後悔もない、けれど彼の傍にいたかった。
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