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自宅に辿り着くと部屋の前に上条瑠兎の姿があった、彼女は右手にワインの瓶を持ち何も聞かずに笑っていた。
「おかえり、取引先からいいワインもらったのよ。せっかくだから茉那と飲もうと思って持ってきたわ」
『ワインなんて久しぶりです、どうぞ?』
私は部屋の鍵を開け彼女を部屋へと招きいれるとそのまま朝まで瑠兎と飲み明かした。
寂しくなんかないわけじゃない、悲しくない訳ない。
本音を言えば灰斗の傍についていきたかった。
けれどそれでどうなるのだろう、ただ恋愛感情のみでついていってその恋を失ったら私には何が残るのだろう。
そう思うと足がすくんで灰斗の傍に無条件で居るわけにはいかなかった、もしも私に灰斗と同じだけの実力があれば着いていけたかもしれない。
でももう終ったこと、今更どうこう言ったところで灰斗との時間が私の手の中に戻ってくるわけじゃないことも分っている。
砂のように指の隙間からすり抜けて落ちて行ったのだから。
それから、私はただがむしゃらに仕事に打ち込んだ、もう私には仕事しかないかのようにただ仕事に没頭した。
そうすれば灰斗との事を忘れられるような気がして、思い出すのが嫌でマンションも変えた、私は全てを忘れるつもりで全てを手放した。
灰斗もそれを分っていたのか携帯番号だけ変えなかった私の携帯に灰斗専用の着信音が再び鳴ることもなく私達は終ったのだと改めて再認識させる、灰斗と別れて数ヶ月が過ぎ季節は春へと移り変わる。
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