月の雫

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まん丸な月がキレイな夜でした。 小魚のセバスチャンは目を覚まします。 岩の隙間の小さな寝室。 空から差し込む月の明かりに誘われ、セバスチャンは寝室を抜け出します。 今まで見たことのない世界。 セバスチャンにとって夜は寝るもの。 今までは、そうでした。 セバスチャンは目を細めます。 あぁ、なんて、キレイなんだろう。 見馴れた景色は、それまでセバスチャンが見た事のない景色でした。 それは、世界の天井から零れる光でした。 セバスチャンの世界。 水の中。 その上から零れてくる光。 セバスチャンは、その光を、もっと、もっと見たいと思いました。 セバスチャンは泳ぎます。 泳ぐのは得意でした。 友達の内でも1番うまく泳げます。 大きな怖い魚に追い掛けられたって、絶対に捕まりっこない。 それほど上手に泳げました。 セバスチャンは世界の天井からプカリと顔を出します。 空が見えました。 セバスチャンは驚きます。 空には、キレイな、小さなキラキラが、いっぱいにありました。 空のてっぺんには、そんな、いっぱい、いっぱいの小さなキラキラを、ひとつところに集めたような、大きな、大きな光がありました。 見たことのないキレイさでした。 セバスチャンは驚きました。 今まで自分が生きていた世界の、ほんの少しの近いところに、こんなにキレイな世界があったなんて。 セバスチャンは、このキレイな世界の向こう側には、きっと、もっともっとキレイな世界があるんだろうなぁと思いました。 そう思ってセバスチャンは、この世界の天井まで泳いでみようと思いました。 けれども、いけません。 ピュン、と、少し泳いだだけで、すぐにポチャンと戻ってしまいます。 どうしてだろう? 僕は、他の誰よりも上手に泳げるのに、こっから先は、ほんの少ししか泳げない。 セバスチャンは哀しくなりました。 見えるのに、届かないなんて。 きっと、まだ僕の泳ぐのが下手なんだ。 もっと上手に泳げるようになれば、あの空の向こうにだって行けるようになるんだ。 セバスチャンは、それから幾日も、幾日も練習しました。 空を泳ぐ練習を。 ピュン。 ポチャン。 ピュン。 ポチャン。 ピュン。 ポチャン。
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