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ある日、セバスチャンより歳上の魚に言われました。
きみ、それは無理なことだよ。
私たちは、そのようには出来てはいない。
それは、どうしようもないことなのだよ。
それよりきみ、一緒に行かないか?
アッチに美味しいごちそうがあるよ。
たくさんあるんだ。
たらふく食べられるよ。
セバスチャンはこの魚を軽蔑しました。
何がごちそうでしょうか。
僕は、そんなことより、もっとスゴイことの方が大事なんだ。
あの空の光まで行って、その向こうだって見てくるんだ。
どうしようもないなんて、何もしないで言ってちゃいけない。
それが解らないのか?
なんて、なんて馬鹿な魚なんだ。
セバスチャンは、それから幾日も、幾日も練習しました。
ある、まん丸な月がキレイな夜。
すっかり痩せて疲れ果てたセバスチャンが水面に浮いていました。
セバスチャンは霞む目で、キレイな小さなキラキラと、大きな光を見つめていました。
もう僕は、すっかりいけなくなってしまったよ。
セバスチャンは頑張りました。
頑張ったけれども、駄目でした。
もう、1ミリだって泳げない。
息をするのもしんどくなりました。
いよいよ、もう、駄目かもしれない。
あぁ、本当に馬鹿なのは僕だったのかもしれないね。
出来なさそうな事からは目を背けて生きていく方が、きっと、利口なんだね。
本当に馬鹿だったのは、僕なんだ。
そう思い、セバスチャンは、少し泣きました。
その時です。
不意に、セバスチャンの体がスゥっと浮かびました。
セバスチャンの体は、高く、高く昇っていきます。
セバスチャンは、もう、ほとんど何も感じません。
もう、ぼやけてしか見ることが出来なくなった目は、今まで自分がいた世界を見ています。
水面の波が、月の光を照り返し、キラキラ、キラキラ光ります。
キレイだなぁ。
あぁ、なんだ。
あの光の向こう側って、こんなに近くにあったんだ。
セバスチャンはそう思うと、最後に一滴、キラキラ光る涙を零しました。
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