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世界は欺瞞に満ちている。
常々そう思う。少なくとも僕は、嘘をつく事を悪いなどと思った試しがない。
僕は睨めっこしていた。証券論の定期試験、最後の問題と。
『サービス問題:以下の単語を使って、日本の証券市場の在り方について、自分の考えを述べなさい。【世界情勢、株、景気】』
僕の住むアパートではなぜかテレビが映らない。パソコンも持っていないし、洗濯機もエアコンも、シャワーすらもなかった。
二十一世紀って、なにかね?
そんな状態で三年以上も一人暮らししているものだから、この問題。僕にとってはサービスもへったくれもなかった。(まあ真面目に受けてなかったのが一番の要因だとは思うが)
こうなりゃヤケだ。
僕は『株』をカブに、『景気』をケーキに置き換えて、野菜族と甘味族との争いをテーマに、まったく違った意味での『世界情勢』を書き殴って提出した。
書かないよりはマシだよな……たぶん。
頭を掻きながら新館教室の真新しい扉をくぐると、隣の談話室から声がかかった。
「おーい、サワヤカー!」
見ると、談話室の隅にある四方二メートルほどの喫煙スペースから、煙草をふかしながら手招きする友人の姿があった。
サワヤカ、というのは僕のあだ名である。僕の名前は『さわや かなで』大学で経済学を専攻している。
爽やかな夜を奏でる、と書く。この妙にジャジーでロマンチックな響きのする名前が嫌いではなかったけれど、このあだ名に関しては正直ロクな思い出がない。
『さわやかSUN組』という某テレビ局の教育番組が放送されていた頃は、特に最悪だった。
当時小学生だった僕は、「番組がつまらない」などという理不尽極まりない理由でいじめられた。掃除当番を押しつけられたり、ドッジボールなどのスポーツでは決まって審判をさせられたり。
番組が終了した時、僕は心底胸を撫で下ろした。これで、いじめられずに済む。
そう思って少しだけ明るい気持ちで登校すると、僕の机には彫刻刀でメイクしたと思われる、
『サワヤカ フォーエバー』
の文字が踊り、さらには、細長い花瓶に活けられた菊の花が、机上でひっそりと哀愁を漂わせていた。
……死んだことにされてる!
これが決定的なトラウマになった僕は、爽やか路線を完全に逸脱した人格を形成したのであった。
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