8月2日~爽やかな夜を奏でる

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  大学生になった今でも呪われたあだ名は健在で、友人は決まって僕のことをサワヤカと呼ぶ。   「なんだ、村上か」   「なんだとはなんだ。相変わらず爽やかじゃねーなぁ」   村上はクククと笑いながら煙草を灰皿に押しつけた。   大学の友人関係など稀薄なもので、大概はテスト前にプリントやノートのやり取りをする為に付き合っているようなものだ。   そんな中で、今日もジャージ、明日も間違いなくジャージ。周りの目とか、流行りとかを微塵も気にしないざっくばらんな性格の彼は、ただ一人の気のおけない友人であった。   うるさいな、と悪態をつきながら煙草に火をつける。銘柄はマルボロのミディアム。中途半端な感じが僕に填まっている。   「だってお前、明日から夏休みだろう? 羨ましいんだよおおぉぉ!」   地団駄を踏むジャージ。 きょとんとする僕。   「あれ? 医学部ってまだ試験あるんだ?」   ククッと嫌味を返し煙を吐く。学部の違う僕らが仲良くなれたのは、一年生の四月に行われる親睦を目的とした合同合宿によるところが大きいのだけれど、まぁ、それはどうでもいい。   「試験は終わったよ……でもな、来週から泊まり込みで研修なんだよ! 患者死ねよ!」   村上は医学部らしからぬ過激な発言をしながら、ガンッ、と、壁に向かって八つ当たりナックルを繰り出した。   今の発言に対し、患者(が抱える悩みや苦しみを理解し、患者と向き合う事で初めて医療は成立する。とりあえず夏に鍋とかやっちゃうバカは)死ねよ!   と、無茶な脳内補完をしつつ、僕は村上を憐れんだ。   「そんな目で俺を見るなぁ!」   僕はさらに村上を憐れんだ。   「……照れちまうぜ」   妙なフラグがたった。
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