矛盾

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それまで先を見据え歩いていた私は立ち止まった。 犬が、いる。 私があと3歩ほど踏み出せば、まさにそいつの目と鼻の先に行ける…だけど私は踏み出せないでいる。 犬が嫌いなわけじゃない。むしろ大好きだ。 そいつのどこか人間味溢れる眼差しが怖いわけじゃない。むしろ愛着がわく。 そいつの、今にも「俺を撫でろ」とでもふてぶてしい態度が気にいらないわけじゃない。むしろ今すぐ近寄って撫でたいんだから。 私が動けない理由は、気付いてしまったから。 むこうの道を、大好きなあの人が横切っているのに、気付いてしまったから。 好きな人に近づきたいのに恥ずかしがって近づかない、そんな私に呆れたかのように、犬が大きな欠伸をした。
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