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経済がとても発達した国で、ある男が嘆きました。
「こんなに下っ端で苦しんで生きて、なんになる、俺のいる意味なんてないじゃないか」
その国では少数の人々だけが裕福に暮らしていたのです。
男はいくら働いても、身を細めていくばかりでした。
あるとき、男が疲れきって寝ていると、まばゆい光に包まれました。
男が跳び起きると、目の前に神々しい金髪の男性が浮かんでいたのです。
男が誰だと尋ねると、男性はいいました。
「私はあなたを死の世界に導くためにやってきました。あなたは、生きている価値がないと嘆いていましたね。それでは、私があなたを痛みもなく、死の世界へお連れしましょう」
男性は男のほうに手をのばしました。
男は躊躇いました。
いつも忙しかったので、死にたいとは一度も考えたことがなかったからです。
男はいいました。
「私が十回死ぬと言ったら、また、迎えに来て下さい」
男性は頷いて、消えました。
それから男は人生で九回死ぬと言いましたが、十回目は、死ぬまでとっておきました。
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