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「ねぇ……。夏探しって、言葉知ってる?」
戻って来た美智子は俺の顔は見ずに墓石に水をかけながら、そう言った。
「夏がね。盛りが過ぎて、ようやく終わる事への感慨を込めて晩夏をうかがうって言葉なんだって」
美智子をまともに見ていられず、俺はそっと顔を背けた。
「誠ちゃん。私達、そろそろ変わらなきゃ」
そこで、一息付き。
寂しそうな横顔で美智子は続けた。
「いつまでも気付かない振りをしていたら、凍えてしまうよ」
それだけ言うと、美智子は墓に向かって手を合わせ、桶を片付けに向かった。
独り、取り残された俺は所在なく視線を落とす。
心の中では愛しかった人へと問うように語りかけた。
俺は独りになったら、寂しくてどうなってしまうかな?
顔を上げると、桔梗が俺に答えるように風に揺れた。
「俺達の夏を探さなきゃ」
俺は美智子の後を追うように愛しかったあの人へと別れを告げた。
例え、晩夏にどう在ろうと。
夏が過ぎてしまう前にやる事が有るのだからと、そう心に秘めた。
いつまでも受け身のままでいる弱いうさぎの殻をそっと置いて。
「俺……、また母さんの子供に生まれたいな」
そんな俺の願いは風に溶けた。
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