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優しい時間
まどろむように目を閉じると、いつだって香るのは桔梗の香りだ。
誠実の花言葉を持つに相応しいあの人は桔梗の生まれ変わりなんじゃないかと、何度思っただろう。
暑い夏を待ち切れないかのように咲く、早生まれの五月雨桔梗を部屋いっぱいに飾った部屋はまるで女の部屋みたいだと、俺の彼女の美智子は笑う。
ベットシーツは洗い立ての淡い洗剤の香りなんて既に飛んでしまっていて、桔梗の香りが染み付いているようだった。
甘い時の中に優しく雨音が響く。
肌はじっとりと汗ばんでいるのに俺はまるで熱を求めるかのように美智子の胸の中にうずくまる。
「誠ちゃん。子供みたいだよ」
くすぐったそうに美智子は身をよじると笑いながら、俺の髪を優しく撫でた。
「こうしないと、眠れないんだ」
俺は呟きながらもいつの間にか眠りに付いていた。
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