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二度目に目を覚めた時、隣りに美智子の姿はなかった。
始めから、そんな女性はいなかったんじゃないか?
そんな不安に駆られ、俺はベットから立ち上がると急いで寝室を後にした。
「置いていかれた子供みたいな顔してるよ」
台所で朝ご飯を作っていた美智子は俺の顔を見るなり、そう言って笑った。
その笑顔が堪らなく愛しくて、失いたくなくて。
後ろから、いきなり抱き締めると、美智子は体をすくめてみせながらも直ぐにまるで泣いている子供をあやすように俺の腕をぽんぽんと軽く叩いた。
「誠ちゃんは独りぼっちなんかじゃないよ」
顔を上げると、いつの間にか美智子の言葉に安心し切っている俺がいた。
鏡の中の俺はまるで、さっきまで泣いていたかのように真っ赤に腫らした目をしていた。
顔を洗い、歯ブラシに手を伸ばす。
青い歯ブラシに並んだピンクの歯ブラシ。
洗面台の周りには女物の洗顔料や化粧水なんかが並んでいて。
手拭き用に桔梗の柄の古びた淡い色のタオルと、その隣りにはキャラクター物のタオルが並んでいる。
「やっぱり、子供じゃないか」
俺は呟いて、迷いもなくキャラクター物のタオルを手にした。
台所に戻ると、美智子は料理をテーブルに置きながら、俺が椅子に座るのを目で辿って来た。
「誠ちゃん。来週忙しいでしょう?」
何も言わずにいると、美智子は言うのを迷ったのか、一度開きかけた口を閉じ、また直ぐに開いた。
「私、お花屋さん行って来ようか?」
それに俺はゆっくりと首を振り、
「いや、大丈夫だよ。有難う」
そう答えた。
本当は自分で行きたいんだ。
そんな想いが伝わったのか、美智子は痛々しそうに笑うと話題を変えてしまった。
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