大樹での出会い

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浅風 彰(あさかぜ あきら)。 20歳で、大学の学費と生活費を稼ぐ為に喫茶店でバイト中。 俺の従姉妹で、一緒に住んでいる。 ショートヘアーで大学でバンドを始めてから色は赤。 たまに無理があるポニーテールにしている。 「病院では静かにしろよ、彰ねぇ」 見舞いに来てくれた事に内心少し嬉しかったが、いきなりの登場にそれもすぐに冷めた。 「もぉ~。せっかく見舞いに来てやったのにその態度はなんだ」 彰ねぇは後ろ手に隠していたスーパーの袋をずいっと突き出してすねる。 年齢の割りに子どもっぽくすねるその姿は、わが義姉(あね)とはいえ可愛かった。 「あ、ありがと彰ねぇ。うれしいよ」 俺は照れながら袋を受け取り、彰ねぇに礼をした。 袋はやけに重く、キンキンに冷えている。 恐らく自分用の酒と肴があるのだろう。 相変わらずちゃっかりしているところが彰ねぇらしい。 「わかればよろしい」 彰ねぇは威張りながらエッヘンと言った。 そして一瞬間が空いた後、気まずい空気が流れた。 「……その様子だと……駄目だったんだね」 俺の右足を見たあと悲しそうな目で俺を見た。 その痛々しさが全てを物語っていた。 「……うん」 「恋をした事ない私が言うのもなんだけど、また新しい出会いがあるよ」 彰ねぇは笑っているが、俺には本当は笑ってない様に思えた。 「うん。心配してくれてありがと、彰ねぇ」 俺は彰ねぇに笑顔で返した。 親がいない俺にとって、彰ねぇが心配してくれるのが凄く嬉しい。 そこには、何故か母さんと父さんの面影が感じる事が出来たからだ。
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