お互いの過去

5/12
前へ
/147ページ
次へ
その瞬間、スクロールの様に景色が横に流れる。 プァーー キィィィ ドカーン 車のクラクションとブレーキ音が聞こえた後、母さんが宙を舞っていた。 「お母…さん?」 最初はなにが起きたかわからなかったが、母さんが地面に叩き付けられてからやっと状況が理解できた。 俺が車にひかれそうになった時、母さんが俺を横から押して代わりにひかれたんだ。 目の前に赤い液体が流れ、新しい水溜まりが出来る。 「お母さんっ!おかぁぁさぁぁん!」 俺は泣きながら母さんに駆け寄った。 母さんの着ていた純白の衣服は赤く染まり、うつ伏せに倒れていた。 「……はや…と…」 目が半開きの状態で母さんは俺を見る。 「お母さん、死んじゃやだぁぁ」 その頃の俺でもこのままじゃどうなるかわかっていた。 そのとき、母さんが思いもしないことを口にした。 「…はや…と…いま…まで…ありがと…」 母さんは笑顔だった。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加