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「……その花、母さんが好きだったもんね」
しみじみとした口調で、シエルは呟いた。
カーネーションはライが物心つく前にシエルと共に母親に渡した花で、それまであまり他人に興味を示さなかったライからの贈り物に母親はとても喜んだそうだった。
ライ自身はそのことは覚えていないのだが、毎年のようにこの日になるとグランツが墓にカーネーションを捧げていたので、そのことは既に知っていた。
「随分ピカピカにしてくれたんだな、偉い偉い」
グランツはライとシエルを褒めながら、カーネーションを墓の前に捧げた。
それから、手を合わせて黙祷をする。
ライとシエルもそれに倣い、黙祷を始めた。
「……じゃ、俺は城に戻るからな」
グランツの声を合図に、ライは顔を上げる。
騎士としての仕事が忙しく多忙な日々を送っているグランツは、あまり自由な時間がとれないのだ。
「分かったよ、それじゃ僕達も――」
「あーっ!」
帰ろうか、とライが言いかけたところで、シエルは突拍子もなく大きな声をあげた。
「夕飯のおかず買ってなかった!私、ちょっと買い物してから帰るね」
そう言って、シエルは慌てて墓地を出て行く。
「バケツとかよろしくーっ」
そう言い残して、シエルの姿はすぐに見えなくなっていった。
「……せわしない人だなぁ」
「母親似だ」
ぽつりと漏らしたライの横で、グランツは微笑ましげに言葉を返した。
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