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そしてライが一人帰路につく頃には、すっかり日は沈んでいた。
「それにしても、バケツをぶら下げて歩くのって結構恥ずかしいな……」
ライはぶつぶつ呟きながら歩いていく。
その時ふと、バケツの中に視線を落とした。
ぐらぐらと踊るタワシやブラシに紛れて、革の財布が一つ。
「……姉さん……」
なんでこんなところに入れておくんだと、ライはずっこけそうになっていた。
大方、掃除をしていて邪魔だったから入れたのだと思われるが。
「仕方ないな、もう」
ライは踵を返すと、いつもシエルが利用しているスーパーへと走り出した。
しかしもうじきスーパーに辿り着くというところで、ライは予想外の光景に出くわした。
シエルが、見知らぬ男に口を塞がれ強引に裏路地に連れ込まれている。
街中に設置されている防犯カメラを避けるため、死角となる裏路地で犯罪が起きるのはよくある話だった。
「ね、姉さんっ!!」
弾かれたように、ライは駆け出す。
手元にあるものはバケツだけだったが、躊躇している暇はなかった。
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