1.涙

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背中を打ちつけたライはしばらくせき込んでいたが、じっと烈火の如き怒りを含んだ目で男を睨みつける。 「何のために、こんなことを……」 「お前等に教える義理はねえな。ま、せいぜい親父に直接聞いてみるこった」 ライはよく分からずに首を傾げたが、グランツに迷惑をかけたくはないと思った。 観察した結果、男は丸腰。 剣などをぶら下げている様子はない。 さらに相手は複数いるようだったが、この部屋にはこの男しかいなかった。 いけるかもしれないと、ライは踏む。 「さてと、そろそろ見張りの交代かな」 男が時間を確かめようと、腕時計に目を落とした時だった。 今しかない。 そう判断したライは足下のバケツを大きく蹴り上げる。 見事にそれは男の顔面に命中し、突然のことに男は怯んでしまった。 「駄目、ライっ!!」 シエルが抵抗を制止するように声を発したが、ここまで来て止まるわけにはいかない。 ライは思いっきり体当たりをして、男を吹き飛ばした。 「ぐわあっ!」 男は悲鳴をあげて倒れ込む。 「姉さん、逃げるよ!」 ライの算段では、後は男を蹴り飛ばして気絶させ、シエルを連れて急いで逃げるはずだった。 しかしその瞬間、耳慣れない小さな破裂音が辺り一面に響く。
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