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仁義なき戦いに水をさされ、冷静になったシエルはパッとライから手を離した。
「あんたね、家の外でもそれくらい言えるようになりなさい」
痛いところを突かれ、ライは言葉を詰まらせてあははと誤魔化すように笑う。
「ま、それはこいつの性格だ。仕方ないだろう」
「もう、父さんまた甘やかして……」
脇から口を出したグランツに、シエルは不服そうな声をあげた。
がっしりとした体格に黒い短髪、46歳にして未だに精悍さを保った眼差しをしたグランツは一見すれば怖そうな頑固親父といった風貌だが、家庭内では違っていた。
ライとシエルを怒ることは滅多になく、ひたすら甘い態度を取っていたのだった。
まあそれは家庭内の話で、騎士として働いている時は見た目通りの性格なのだが。
「それより、父さん随分遅かったんじゃないの?待ちくたびれたんだけど」
そんな一面を知らないシエルは、いつものように切れ味鋭くズバズバとグランツを責め立てた。
「わ、悪い悪い。なかなか城を抜けられなくてな。それに、これを買いに行ってたんだ」
そういってグランツが差し出したのは、一輪のカーネーションだった。
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