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「おじゃましまぁす…」
自分が来た事を告げる挨拶の後に、香織は少し小さめの声で言う。
「お母さんトカは?挨拶したいんだけど…」
小さい時から基本的な挨拶や礼儀に厳しかった香織は、誰の家に行っても必ずその家の人に挨拶する様に躾られていた。
「あぁ…言ってなかったっけ?俺、一人暮し」
愁が廊下の突き当たりのドアを開けながら言う。
「へぇ~……
ッてオィィ!!」
ドアの奥に消えていく愁を追いながら香織が叫ぶ。
「聞いてないしぃぃ!!」
愁を追って入ったのは、広いリビングだった。
床はフローリングで、リビングの真ん中には少し大きめのガラステーブル。
それを半分囲む様に、黒の高そうなL字型のソファーが置かれている。
「まぁいーんじゃない?とりあえず適当にその辺にでも座ってて」
愁にそう指示され、香織はソファーに座る事にした。
…良いのかなぁ…
香織が考え込んでいる。
…一応、愁も男の子だし
…一応、あたしも女の子だし…
一人暮ししてるなんて聞いてないょ~
「…り…」
…大丈夫だよね?
「か…り…」
…きっと何とも無いよね。
「香織!!」
「えっ!?あッッはい!!」
不意に名前を呼ばれ、我に返る。
「うひゃぁ~っ!!」
香織の目に飛び込んで来たのは、愁のドアップだった。
「何ぼ~っとしてたの?」
愁がドアップの位置のまま、香織に聞く。
「なんでもないのっ。ちょっと考え事しててっ」
香織は赤い顔をして、体を少し後ろに反らせた。
「何?…あ。やらしい事でも考えてた?」
少し離れた愁の顔が、また近くなる。
「や…やらしい事って??」
更に体を後ろに反らせる。
愁も香織の体が反れた分だけ距離を詰める。
「俺に、なんかされるかも~とか?」
意地悪そうな笑顔の愁。
その瞬間、香織の顔が真っ赤になった。
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