最後の奇跡

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 私が駆け付けてから1時間後の午後7時。この分なら明日の朝までは大丈夫だろうということで、弟は一旦会社に戻った。母は今晩泊まり込んで付き添い、私もあと1時間したら一旦家に帰ろうと思っていた。  午後8時。私が帰ろうとすると携帯に電話が入った。事情を聞いたいとこがこれから病院に来るという。そこで私は帰らず母と待つことにした。  8時30分。いとこが到着。意識のない父を見て、泣きながら呼び掛けてくれたが、反応はなかった。しばらくして、たんが喉につかえているようだったため、看護婦を呼んで取ってもらった。すると、次の瞬間、思いがけない事が起こる。  突然眠っていた父の両目がカッと大きく開いたのだ。こんなに大きく開いたのは病気をしてからは思い当たらない。体は動かないし声も出ない。しかし父はまるで最後の力を振り絞ったかのように目を見開いてこちらを見たのだ。  「お父さん!お父さん!分かる?お父さん!」  私は父が持ち直したのだと思い、必死で父に呼び掛けた。母も同様だった。それは一つの奇跡だった。昏睡状態だった父が意識を取り戻した瞬間だった。しかし、それも長くは続かず、奇跡はそこで終わった。
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