『始まりは雨』

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    「最悪だ」 俺は独り呟く。 朝から曇天だったが、天気予報を信じて傘を持たずに出掛けて来たっていうのに。 帰りの電車を降りて駅から出てみれば、このどしゃ降り。 天気予報は当てにならないというが、身をもって知った。 雨空を見上げて、オレはもう一度呟く。 「最悪だ」 俺と同じように天気予報を信じて傘を持たずに出勤したのだろう。 周囲にはサラリーマンやOLが溜め息をつきながらタクシー乗り場へと足を向けている。 一人暮らしのオレには、そんな無駄な出費をする余裕はない。 それに、タクシー乗り場は既に長い列を成している。 あそこでタクシーを待つのは、かったるい。 「メンドクセー…」 溜め息をつき、カバンを脇に抱え直した俺は大粒の雨の中へ駆け出した。 家に帰ってすぐに風呂にでも入れば、風邪もひきはしないだろう。  
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