『始まりは雨』

5/6
17550人が本棚に入れています
本棚に追加
/344ページ
    俺はシャツの胸ポケットから定期券ほどの厚手のカードを取り出し、ガキ共に某御老公のように掲げて見せた。 「『キャット』だ。 抵抗すれば…判るだろ?」 ガキ共は面食らって言葉を詰まらせたが、いきなり笑いはじめた。 「キャットがなんだっつーんだよ!」 「テメェ独りで、何ができんだ?おい!」 「やっちまおうぜ?カードも裏で売れんだろ」 やっぱダメか。 確かに俺独りじゃどうにもならない。 でもこっちには武器がある。 合法的に拳銃所持しているが、こいつら知らないのか? まぁいい。 「おい、お前」 俺に背を向けたままの男の背中に声を掛ける。 そうしながら、カバンのサイドポケットに納まっている銃を握り締めた。 「早く行け。 ここは俺が引き受けるから」 男が顔だけをこちらに向けた。 まだ幼さの残る、青年と言うには些か早い… こいつも、少年。 初めて見る顔。 だけど俺は、その表情に見覚えがある。 その表情から読み取れるのは、 深い憎悪を孕んだ怒り。 思わず身震いする。 「あんたもキャットなら判るだろ? こういう屑みたいな奴らは更正なんかしない。 全部崩さなきゃ積み直せないんだ、って」 その怒気の中にあって、少年の目はひどく哀しげ。 「テメェ… 誰がクズだとコラァ!」 ガキのひとりが、少年に飛び掛かる。 「げ」 その予想外の動きに、全く反応出来なかった。  
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!