『選ばれなかった者』

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    翌日。 8月9日。 仕事場に足を踏み入れた俺を待っていたのは、副部長のキツイ説教だった。 「能力者を見逃すは、顔は憶えてないは、書類は駄目にするは…! 貴様、キャットを舐めとんのか!?」 そう言われても、俺みたいな新人にあの状況で何が出来るっていうんだよハゲ… 「貴様は入団したときからずっとそうだ! やる気のなさそおーな顔しおって! ちょっとは、しゃっきりせんか!」 関係ないだろう… ていうか顔は生まれつきだこのハゲ。 人の顔をとやかく言うまえに治療してこい。 治療出来るんだから。 …確かに、俺は何も出来なかったさ。 どしゃ降りの雨のせいで少年の顔はろくに見えなかった。 朧気に雰囲気だけ掴めてはいるから、会えば判るかも知れないがモンタージュなんて無理なレベル。 しかもあの惨劇。 ちらっとしか見えなかった男の顔なんか、完璧に憶えていられる訳がない。 俺の持ち帰った情報は、 性別は男 中肉中背 紺色のシャツにジーンズ 水を操ってた様子 そんなもんだ。 「年々能力者は増え続けておる! 能力者同士、ゲーム感覚で闘う者まで現れてな! なのに貴様は…!」 「そのくらいでいいから」 副部長の説教を止めてくれたのは、他ならぬ部長だった。 「それより、席を外してくれるかい? 少し、彼に質問したいことがあるんだ」 「む… 部長がそう仰るのでしたら…」 副部長は「命拾いしたな」とでも言いたげな目を俺に向けると、部長室から出ていった。 部屋に残ったのは、部長と俺の二人だけ。  
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