チェーンメール 一章

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金属物を引きずるような音。 カラカラ カラ、カラ… ずるっ ずる… だんだん聞こえてくる。 鮮明に。 近いということなのだろうか。 そんなことに思考を巡らせていると、ふと気付く。 自分の足が、止まっている。 そして、右にある大きめの建物を見上げる。 ミスクアパート。 ここだ。 見つけることが出来たことに小さく安堵の息を漏らす。 が。 ずる カラカラ ずるる… カラカラ 引きずる音は、聞こえたままだ。 考えを巡らせている間にも。 しかも音源が間違っていなければ、目の前にある建物。 ミスクアパートから聞こえている。 ずる…る… カラ カララ… 音を耳にするたびに背筋を駆け上がるもの。 冷気。 何かがこの建物を包んでいるようだった。 分かりやすく例えるとすれば。 ミスクアパートだけ冬になったみたいに、足元にねっとりと冷気がまとわり、過ぎていくのだ。 何度も何度も。 そして、嫌な考えがよぎる。 あのメールは『本物』かもしれない…‥ メールに『本物』も『嘘』も無いとは思う。 しかし、今こうやって不思議で奇妙な音がするのだ。 『嘘』と表す騙しではない。 ……気がする。 私はミスクアパートの門をくぐり、中に入る。 エレベーターを使う時間なんてはじめから考えちゃいない。 階段をサンダルで駆け上がる。 走りにくい。 時刻は22時47分のまま。 あれだけあって、まだ1分経過していないのか。
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