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一
住宅街は寝静まっていた。
所々明かりはついていたが、静寂な衣が舞い降り、覆いかぶさっている。国道から逸れていたから、通過する車の雑音も聞こえない。その通りを、足の悪い野良犬が餌を求めうろついていた。乾いた泥がささくれ立った毛に付着し、半分耳がかじり取られていた。弱々しい眼光が負け犬の経歴を示し、爛れた目が充血している。餌も探せないらしく、痩せ衰えた体に肋骨が浮上し、今にも倒れそうだ。
ごみ箱を捜し出した野良犬の横を、乗用車が坂道から滑り降りて来た。ライトを消し、エンジンを切っている。濃いスモークが張られ、車内は完璧に見えない。
乗用車は白い家の前で、静かに停車した。
最近建てた家らしく、しっくいの匂いが立ち込めている。玄関には幾つかの植木が並べられ、門扉に書かれた花の絵が可愛らしい。裏手には小さな庭と物置、三輪車が無造作に放置していた。
その家を、犬丸誠が眼光鋭く、睨みつけていた。殺気さえ伺える。これからの相手が、いかに手強いかを表情に表していた。
もう寝てるな。
犬丸はコートから銃を取り出し、弾丸を確かめた。
銃は愛用しているコルトだ。使い安くていい。
かなり使い込んでいたから、握る部分が消耗している。
犬丸は深呼吸すると、ドアを開けた。同時に冷たい風が、体を鋭く包んだ。コートの襟を立て、犬丸は周囲に気遣いながら、白い家に近づく。そしてさくを勢いよく乗り越え、窓から中を伺った。電気や気配が消えている。
犬丸は裏庭に回り、ポケットから針金を取り出し、閉まっている裏戸を開けた。
廊下は電気が消え、薄暗かった。
月の光だけでは足元が覚束ない。
犬丸はゆっくりした足取りで、室内を探っていった。
一階は二部屋と台所と風呂場。
割りとゆったり目に取られた空間だ。
居間を開けると、人気がなく、テレビ、ステレオ、ソファが陣取っている。
部屋を出てから、時間が経っているのは、気配で分かった。
次に犬丸は風呂場に入った。タオルが水で濡れ、湯気も残っている。使用した形跡があったが、誰かは分からない。
台所に行き、包丁を確認した。全部包丁は掛かっていた。
敵は二階か。
犬丸は拳銃を握り締め、静かに階段を昇った。
二階は三部屋に別れ、各部屋にドアがあった。
まず右手のドアを慎重に開けた。
こじんまりした室内に縫いぐるみが所狭しと並べられてある。窓際にベットが置かれ、誰か寝ていた
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