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「ゆうた!」
快活な声を放ち教室へ侵入した少女、大田春香は、栗色の目を爛々と見開き、信じられないという顔で叫んだ。
「おー、ハル」
名前を呼ばれた相手、山本勇太は、ボーッと空を見ていた焦茶の瞳をゆっくり春香に向ける。
「結果! 結果見た?!」
春香はずんずんと真っ直ぐに窓際の席に歩いてきた。
手には何やら紙を握っている。
その紙についてだろうが、勇太は理解できない。
「何の?」
「『ぶっちゃけ誰だ?!』!」
「あー‥そういや、前にそんなアンケートを取らされた記憶があるようなないような……」
と勇太は頭を押さえた。
「しかし、またえらく省略したな‥」
正しくは『ぶっちゃけ美男美女は誰だ?!』。
このままでは、相手が誰なのか当てるゲームである。
そんな苦笑した勇太にお構いなしに、春香が更に目を輝かせて続けた。
「てか誰が一位だと思う?!」
「誰って……」
勇太は考えた。
聞いてくるということは、意外なヤツなのかもしれない。
いやむしろ、と淡い期待を寄せて、身近な友人から考えてみた。
「……ヒロ?」
「ブー!!」
期待が膨らんでしまうのは仕方ない。
勇太はそんな気分を押さえて、浮かんだもう一人の友人を出した。
「ノリ?」
「ピンポーン」
「予想通りじゃねぇか」
友人、海道則久は過去二位に浮上した男だ。
自分がまさかの一位なのかと思い、思わず顔が赤くなる。
春香は満足したのか、あらためて校内新聞を広げた。
「でもゆうた、五位だよ?」
「……マジ?」
ホラと見せる春香が広げた紙に、確かに書き間違いじゃなく自分の名前がある。
しかし、それより目についたのは。
「……まて。俺に感動するより──‥ヒロ、二位じゃねぇか」
こっちの方が遥かにすごいし、なんだか悔しい気持ちもある。
いや、それ以前に自分の結果がウソっぽく見えてきた。
「ね! スゴくない、ゆうた?!」
「あぁ、凄い集計ミスだな」
「うわ。可愛くないなぁ」
笑う春香を横目に、再び視線を新聞に移し――
二年生の項目に、ふと目がいった。
『一位:戸口 優子』
勇太の顔が一気に強張る。
“妹なの――‥!!”
そう言っていた少女が、いた。
でも、笑った顔が思い出せない。
勇太は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
この子の中には、戸口真夜子はいないのだ。
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