予兆

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そんな申し訳ない気持ちを隠すように、勇太はあらためてその結果をマジマジと見直す。 二位を大きく引き離して一位。噂では、学年以外の連中もこの子の名前を書く人がいるとか。 「凄いな‥」 「ん? あぁ! ゆんちゃんね」 「ハルそういや、後輩だったな」 戸口 優子(あだ名は‘ゆん’)はバレー部で春香の後輩である。 真夜子経由で、見事に春香が優子の勧誘に成功したというが──‥ 恐らく勧誘された本人は記憶にない話。 春香が、悲しく笑って窓の外に写し出される空を見上げた。 「──‥ブレスレット‥ゆんちゃんに上げたんだ。誕生日に‥‥」 「そっか‥‥」 春香の中には真夜子の記憶がある。 しかし優子の中には姉であった真夜子の記憶がない。 それが、春香にはとても可哀想に感じた。 本人記憶がないのだから、悲しいと言うこともないのだが──‥。 青い星と黄色の星を交ぜて、作り直したブレスレット。今では、優子の腕でシャラン、シャランと音を立てて舞っているようだ。 「‥‥快挙は男子だけか?」 そう笑って勇太が新聞を返すと、ちゃんと見てないのか、と膨れて新聞の一部分を差した春香。 「よっちゃんが三位だったよ?」 「あー‥分かる気がする」 「…………」 その言葉に、春香が不安に顔を曇らせた。 なんで分かる気がするの? 気になるの? よっちゃんが 不意に春香の視線に気付いてないのか、勇太が席を立つ。 「ゆうた‥‥誰書いたの?」 なんでこんなに不安になるのか、春香にだって分からない。 ただ、真夜子以外の人が勇太の中にいるのは嫌な気分だった。 勇太は片手を挙げて、ヒラヒラ手をふりながら教室から出ていこうとした。 「山本 勇太?」 その出ていこうとした男子に話しかけてきたのは、文学部部長。 「はぁ‥‥何か用──‥な‥」 「?」 中村さん、と言おうとして止めた。 紹介したのは、真夜子だったから、記憶のない彼女にとって自分は知らない人間。 だから覚えられてるなんて、気味が悪いかと思って止めた。 「まぁ、いいわ。ちょっとお伺いしたいのですが‥‥」 構わず中村という部長は話を進めた。
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