1086人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな申し訳ない気持ちを隠すように、勇太はあらためてその結果をマジマジと見直す。
二位を大きく引き離して一位。噂では、学年以外の連中もこの子の名前を書く人がいるとか。
「凄いな‥」
「ん? あぁ! ゆんちゃんね」
「ハルそういや、後輩だったな」
戸口 優子(あだ名は‘ゆん’)はバレー部で春香の後輩である。
真夜子経由で、見事に春香が優子の勧誘に成功したというが──‥
恐らく勧誘された本人は記憶にない話。
春香が、悲しく笑って窓の外に写し出される空を見上げた。
「──‥ブレスレット‥ゆんちゃんに上げたんだ。誕生日に‥‥」
「そっか‥‥」
春香の中には真夜子の記憶がある。
しかし優子の中には姉であった真夜子の記憶がない。
それが、春香にはとても可哀想に感じた。
本人記憶がないのだから、悲しいと言うこともないのだが──‥。
青い星と黄色の星を交ぜて、作り直したブレスレット。今では、優子の腕でシャラン、シャランと音を立てて舞っているようだ。
「‥‥快挙は男子だけか?」
そう笑って勇太が新聞を返すと、ちゃんと見てないのか、と膨れて新聞の一部分を差した春香。
「よっちゃんが三位だったよ?」
「あー‥分かる気がする」
「…………」
その言葉に、春香が不安に顔を曇らせた。
なんで分かる気がするの?
気になるの?
よっちゃんが
不意に春香の視線に気付いてないのか、勇太が席を立つ。
「ゆうた‥‥誰書いたの?」
なんでこんなに不安になるのか、春香にだって分からない。
ただ、真夜子以外の人が勇太の中にいるのは嫌な気分だった。
勇太は片手を挙げて、ヒラヒラ手をふりながら教室から出ていこうとした。
「山本 勇太?」
その出ていこうとした男子に話しかけてきたのは、文学部部長。
「はぁ‥‥何か用──‥な‥」
「?」
中村さん、と言おうとして止めた。
紹介したのは、真夜子だったから、記憶のない彼女にとって自分は知らない人間。
だから覚えられてるなんて、気味が悪いかと思って止めた。
「まぁ、いいわ。ちょっとお伺いしたいのですが‥‥」
構わず中村という部長は話を進めた。
最初のコメントを投稿しよう!