清算

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(まあ俺も人のことばかり心配してる場合じゃないか。背番号2は貰えたけど、まだまだ監督の信頼を勝ち取ったわけじゃない。俺も次の試合は頑張らないと) 人よりまずは自分の足元が大事なので、これ以上榎本のことは考えず仁科は試合に集中する。 そして数分後、試合開始間近ということで投げ込みを中断。 「そろそろいくか」 座っていた仁科は立ち上がり、ブルペンから三塁ベンチの方を見る。 「今日でウチのエースが決まる。悔いなくいこう」 ブルペンから出る際に、仁科は榎本に近づき、軽く背中を叩いて笑顔で言う。 「あっ?そんなもん今は興味ねぇよ」 しかし榎本は怖い目つきで仁科をジロッと見て冷たく言い放つ。 「えっ?」 てっきりエース争いの件で気合いが入っていると思っていた仁科は、榎本の思わぬ返答に驚いて素っ頓狂な顔になる。 そんな仁科を構わず、榎本は一人そそくさとベンチへ向かって歩き出す。 仁科の頭の中にはずっと、江夏が放ったある言葉が巡り巡っていた。 "塁の件については、もう俺らなりに(かた)が付いてんだ!今さら周りにとやかく言われたくねぇ!" 榎本はその言葉を思い出すたびに怒りが込み上げてくる。 (方が付いてる?ふざけんな!清算なんかさせねぇよ・・・!) このまま絶対に済ませはしないと、殺意に満ち溢れた目で榎本は試合へ臨む。 その後ベンチへ戻った榎本は、近寄りがたいオーラを全開に、端の方で一人集中力を高める。 一方の仁科はちょっと迷ったものの、今日の榎本の様子が変だということを監督にも知らせようと石森の前にいく。 「監督、今日の榎本なんですけど、少し様子がおかしいです。うまく言えないですけど、異常なまでの気合いというか、公式戦でも見たことのない圧を感じます。明らかに平常心ではない」 仁科はチラッと榎本を見て、凄く心配そうな表情で石森に報告する。 「・・・そうか!まあアイツにとって、今日の相手は特別だからな。気合いの入り方も違うんじゃないか?」 なにか事情を知っている石森は、仁科の報告に納得したように頷いた。
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