清算

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「なんだよアイツ!龍、あんなの気にしなくていいからな。負けたら野球辞めろだとか、アイツが勝手に言ってるだけだから、聞く必要なんかねぇよ」 一方的に言って去っていった榎本に腹立てながら、江夏は西本に声を掛けるが、西本は思い詰めた顔をしながら俯いて黙っている。 (こりゃヤベェな・・・) 完全に気にしてしまっている西本を見て、面倒事になったと江夏は頭を悩ませた。 「仁、そろそろ戻らないと・・・」 いつまでもトイレの前にいるわけにもいかないので、城之内が恐る恐る口を開く。 「だな。とりあえず行こうぜ。ほら、龍も」 江夏は頷いたあと、西本の肩を優しくポンッと叩いて歩き出すよう促す。 西本は返事はせず表情も変わらぬままだったが、戻る方角に向かって進みだした。 (気にすんなとは言ったけど、義理堅い龍のことだ。もし試合に負けたら、本当に野球を辞めちまうかもしれん。クッソ・・・!) 江夏はこの中で誰よりも西本の性格を分かっているので、なんとなく西本が取りそうな行動が予想できてしまう。 そしてトイレから戻る道中、そんな江夏はふと足を止める。 それに合わせて、江夏の後ろを歩いていた城之内と亀田も立ち止まったが、西本は何も気づかず歩いたまま。 「龍、悪いけど先戻っててくれ。さっきトイレ行ったら、なんか大きい方もしたくなっちまった」 江夏は左手で自分のお腹をさすって、笑い混じりに作り笑顔をしながら言う。 「・・・分かった」 軽く振り向いて手短に返事をすると、西本は前を向いて歩いていく。 「蓮と豪も付き合え」 江夏は二人を顔を見て目配せをして、三人は再びトイレの方へ戻っていった。 ただトイレまでは戻らず、その途中で三人は足を止める。 「お前らも気づいてると思うけど、龍の性格を考えたら、試合に負けた場合、本当にあの野郎の言うこと聞いて野球辞めちまうぞ」 江夏一人ではどうしようもないため、城之内と亀田にも協力を仰ごうと、今考えていることを危機感を持ちながら話した。
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