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江夏らが試合を観ていた場所に戻ると、桐瓔商業と剛南の試合は九回表に差し掛かっていた。
得点は12ー3になっており、剛南が八回に2点返している。
次郎たちは、試合も九回ということで既に体を動かし始めている。
西本は端っこの方でポツンと一人、静かに体を温めていた。
「あっ、戻ってきた」
江夏が戻ってきたことに気づいた木田が、すぐさま駆け寄ってくる。
「なぁ、なんかあったのか?西本の奴、なんか暗いんだけど」
西本本人には聞こえないよう、木田は口元に手を添えて小さな声で江夏に尋ねた。
誰がどう見ても今の西本は気分が沈んでいるように見えるので、別に付き合いがそこまで深くない木田らでも簡単に分かる。
「えっ?・・・いや別になんにもねぇよ。気のせいじゃねぇか?」
ちょっと焦った江夏は、声をうわずらせながら答えた。
「う〜ん、そうか?まあ何もないならそれでいいけど」
木田もさすがに怪しいと思ったが、江夏が気のせいという以上、深くは詮索せずひとまず引き下がる。
「さぁ、アップしようぜアップ!」
誤魔化すように話題を逸らし、江夏らも体を動かし始めるのだった。
その後、桐瓔商業と剛南の試合は12ー3で桐瓔商業が圧勝という形で終了。
本日の第二試合が終わり、最終試合である栄光学院と桐瓔商業の試合ということで、次郎たちはグラウンドに入り一塁ベンチへ。
それとほぼ同時に、榎本が三塁ベンチに入る。
「おっ、榎本来たか。早速ブルペン入るだろ?行こうぜ」
榎本の姿を見つけて声を掛けてきたのは、桐瓔商業二年生捕手の仁科 雄人。
身長は榎本と同じくらいで、細っそりとした体型、黒髪ナチュラルヘアの顔がやや大きめで、ちょっとインテリ系の顔つきをしている。
「ああ」
榎本は無愛想に返事すると、グラブを持ってブルペンへそそくさと歩いていく。
明らかに様子が変だと思い、疑問に思いながら仁科もついていった。
二人はブルペンに入るとキャッチボールを開始。
(よく分かんないけど、なんか殺気立ってんだよな・・・。大丈夫か?)
事情を聞くべきか、試合に影響はないかなど、仁科はいろいろなことを考えて心配しながらキャッチボールをしていた。
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