清算

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その後、仁科が座り、榎本の本格的な投げ込みが始まる。 普段よりも気合いのこもった球が次々と仁科のミットに音を立てて収まった。 (いつも以上に力が入ってる。ブルペンからこんな球威のある球を受けたのは今日が初めてだ) 高校から幾度となく榎本の球を受けてきた仁科だったが、初めての現象に戸惑うばかりだ。 「ナイスボール。けど試合前から飛ばし過ぎだ。もうちょい抑えろ」 こんなところで無駄に体力を消費されても困るので、仁科はボールを返球しながら注意を促す。 しかし榎本が次に放ってきた球も変わらず力のこもったストレート。 (聞く耳持たずか・・・。やれやれ) 自分の忠告が全く聞いてもらえないので、仁科は呆れて小さく溜め息を吐く。 (一応こうなった理由として考えられるのは、今日の試合の結果含めウチの真のエースが決まるからだ。今回、エースナンバーは三年の先輩に決まったけど、正直言って実力は榎本とどっこいどっこい。むしろ俺から見れば榎本が若干上だ) 仁科的には榎本の評価の方が高く、榎本の方がチームのエースに相応しいと思っている。 (それでも最後の年ということもあって、エースナンバーは三年の先輩が選ばれた。けど監督の信頼度はまだ確定していない。今日の結果次第では榎本(アイツ)が実質ウチのエースになる。大事な試合で先発を任される存在になれる) 桐瓔商業のエース争いはまだ決まっておらず、仁科はそれで榎本が異常に力が入っている理由と考えた。 (最初は栄光学院とかただの無名校かと思っていたが、埼玉ベスト16の剛南高校といい試合をしていた。栄光学院に対する石森監督の評価も上がったはず。その栄光学院をしっかり抑えることができれば、間違いなく榎本がエースになる!) 仁科はずっと榎本の球を受けながら、榎本の今後の行く末を考えていたのだった。 ただ今の榎本は、西本を潰すということしか頭にないので、仁科の考えは皆目見当違いである。
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