遠謀と流布

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  「……。」 俺の素晴らしいサインに、感動しているのか? アイシャの奴はしばらくの間、任命書を見ながら呆然と立ち尽くしていた。 「アイシャ様、王佐殿。御呼び立てですかい?」 そこにジョニーの野郎が、ティータと共に駆け付けて来た。 「ジョニー殿っ!伝令ではなく勅使としてオビ殿のいる軍に駆け付けなさい。三軍の前で任命書を読み上げて、以後はオビ殿の副官として尽力しなさい!」 アイシャの突然の命令に対して、ジョニーの野郎は唖然としながら突っ立ってやがる。 「オビの野郎が司令官。わ、わ、ワシが、その部下になるのですかい!」 オビの抜擢もそうだが、テメェの二番弟子であるオビの下に付く事がジョニーには納得いかないのだろう。 「命令じゃ、貴様ァ!馬鹿垂れがァァ!グダグダ抜かさんで早くいかんかい!」 ジョニーに対して怒鳴り付けるボルゲとて、内心は穏やかではないだろう。 仮の司令官と同時にオビに与えられた爵位は騎都尉。 小隊ではなく、戦場では一軍を指揮出来る程の、ボルゲよりもニ階級上の将軍職。 尉の爵位からの一階級の違いは果てしなくデカい。ジョニーは当然として、ボルゲですらも絶対に敬語。 遥かに上の人になってしまったワケだ。 走り去るジョニーを遠く寂しげな表情で見つめながら、アイシャの奴が、冷たい冷たい瞳でティータに対して言い放った。 「姫殿下、鬼になって下さい。牙狼騎士団は本日、人間を捨て去ります。この戦の流布が再建の分岐点、皆殺しに致します……」 俺やティータはともかくとして、世の中に怖い物など存在しないだろうボルゲですらも…… 息を呑む程に―― なんつうか、アイシャの体中から冷たい殺意がほとばしってやがった。 「任命書と共にもう一通、命令書をオビ殿に届けました。彼ならば必ず任務を遂行するでしょう。王佐様、三軍に進撃命令を」 アイシャの問い掛けに対して…… この時に俺は、何て答えたか覚えちゃいない。ずっと、考え事していた。 陣内にいる敵を皆殺しにしても、ラス・シアラにいる敵を皆殺しにしても…… それは勝利ではない。 勝利とは風評?敵が、シアラの軍が来たと聞いただけで、怯えて、あまりの恐怖の為に臓腑を吐き散らして狂い死にする程の風評。 アイシャの奴…… 何をする気なんだ?
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