召喚獣の任命

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  「は?」  嫌な予感しかしない。人間の命を媒体に召還獣を降臨させるみたいな感じなのかとマコピは考えている。生きたまま心臓抜き取られて祭壇にささげられちゃう。そして貢ぎ物にされてしまう。そんなことを考えれば考えるほどに嫌な予感が膨らんでいく。 「ぼ、僕の心臓に生えてる毛は固いですよ、剛毛で有名ですから。う、ウニみたいな心臓なので精霊様のお気に召さないのでは……」  涙ながらにマコピは訴えている。嫌だと言ってもこの召還師が指をパッチンと鳴らした瞬間に衛兵達がぞろぞろ雪崩れ込んでくる。そのまま無理矢理、魔法円の描かれているフロアの祭壇にレッツゴーみたいな感じになるかもと本気で怯えていた。 「命なんか取らないよ」  マコピの青ざめる顔を少しのあいだ堪能していたのだろう。頃合いを見計らい満足したような笑みを浮かべて召還師が口を開いた。Sマン確定である。そしてテーブルの上に置いてあった何も入ってないグラスを手に取ると、それをかざして眺めながらグラス越しにマコピの目を見据えていた。 「人間に魔法なんて使えない。当然、僕にもそんな力はないよ」  これにはマコピも度肝を抜かれていた。何を言っとるんじゃこの男はという思いと同時に、長年心の奥底に引っかかっていた疑念が晴れたような気もしていた。 「魔導器って……、やっぱり、ありゃ……道具?」 「君は疑ってたんだね。本当に凄い、殆どの人は……、いや、扱ってる者さえも誰も疑わない。みんな心から魔力を信じてるのに」  言葉が出ないとはこのことだ。研鑽に研鑽を重ね、心と体を鍛え抜いた者だけに魔力は宿る。誰もが子供のころからそう教えられてきたのだ。だから人々は聖騎士に羨望のまなざしを向ける。  家柄が良くなく士官になれないものは、両親と祖父母までスタンシアラ生まれであるという出生条件はあるが、武勇、忠誠、どちらも高いと認められたものは特別に、ミスティックリッター(馬上魔術師)に任命され魔導器を手渡されることもある。 「そう、君が思っていた通りだね。魔導器はただの道具、引き金を引く力さえあれば子供にだって扱えるんだ」  確かにマコピは疑っていた。しかし、ここまでド直球で言われるとは夢にも思ってなかった。とんでもねぇ告白だ、頭の整理が追いつかない。 「理由は二つだよ……」  召還師の淡々とした話し声だけが静寂の部屋の中に響いている。一つは魔導器の原動力となる晶石の貴重さ。黄金より遥かに高価な鉱石で各国が目の色変えて取り合っている。そこまでは説明がなくてもマコピにだって分かる。 「だから分かるよね? 誰にでも渡すワケにはいかないよね」  確かに召還師の言う通りだろう。こんな物で遠くから狙われたら偉い人を守るの大変だ。しかも誰でも扱えるって分かったら、絶対に闇ルートで売り買いされる。そうなりゃ必ずコピー品が出回るだろう。  魔力を理由に忠誠心が強くて信頼出来る者だけに手渡すのだ。だから士官級の聖騎士とミスティックリッターにしか扱えないとなっている。  なんつったって、魔力の備わっていない者が扱うと死ぬとまで教え込まれているんだ。一般の者達は自分には扱えない物だとと最初から分かってるなら、当然だが買う奴がいない。闇ルートの販売もない。  人々が幽霊を恐れるがごとく、見たこともない神や悪魔を信じるがごとく、魔導器は魔力増幅器だと信じて疑っていない。何世代も前からそう教え込まれている。その人間が持つ魔力そのものを召喚士様が否定しているんだ。これが世に知れ渡ったら大変なことになる。騎士達の忠誠の源をも否定したことにもなる。 「昔からこの事を知るのは、ほんの一握りの人達だけなんだ」  この言葉を聞いた途端、マコピの頭の中に非常に嫌な予感が駆け巡った。ヤバい、今すぐ帰りたいと思ったがもう手遅れ。そんなに大切な事を暴露する理由、そして先程の召喚獣になってくれないかの台詞。  考えなくともわかる、何かマコピに頼み事があるのだろう。しかし、どんな無茶難題を言われてもマコピに断る道はない。断りゃ間違いなく……
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