昔雨の降る街で

2/12
前へ
/94ページ
次へ
  僕の住む街には『昔雨(むかしあめ)』が降るのです。   盛大なサイレンが鳴り響き、中央庁から告げられるアナウンス。 『これより、「昔雨」が降ります。建物から出ないよう、お願いいたします』 僕は慌てて店の二階の住居フロアのベランダへ走ると、備え付けタンクの蓋を開け放った。 『昔雨』が降るのは、数ヶ月に一度。これを逃すと、こちらの商売も上がったりなのだ。 やがて、階下の店先から、濁声が聞こえてくる。 「るーと、窓ヲ開ケテクレ」 僕は苦笑いを交えて下へ叫んだ。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

502人が本棚に入れています
本棚に追加