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バーチャンドラーは、各駅停車の電車しか停まらず、開発に見捨てられた街角にあった。
そして、その店にやって来る人間には、共通していることが1つある。
誰もが、孤独だということだ。
そしてやっかいなことに、誰も孤独のまま生きられないということだ。
眠りを忘れた酔っ払い経ちが、彷徨ううちにここに辿り着くような場所。
そんな行き場が無くなった者たちが来る場末なバーが、チャンドラーバーだった。
「自分で書いていても、乗ってくる書き方は、読んでる方も同じように感じると思うんだ」
そう芽の出ない作家志望の男が言った。
「あなたは、何のために書いているの?
あなたの文章より、便所のラクガキの方が、まだ笑えるわ」と、肩に片翼のタトゥーを入れた赤いドレスを着た女が、そう言いながら、芽の出ない作家の横のスツールに腰掛けた。
「俺のを読んだことがあるのかい?」
カウンターに上体を預けながら、女を振り返り見た。
「あるわ。出版社に断られた夜、泣きながら、あなたは私に原稿を見せたじゃないの?」
ドレスの足下から、白いふくらはぎが見えた。
「ふっ、君は誰かにして貰うばっかりで、人を喜ばせることを知らないんだ。
今度は、他の男に何を買ってもらうんだい?」
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