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「私が頼むんじゃないのよ。
欲しい物は何かって、勝手に私を落としたいと願う男たちが想像するのよ。
欲しいのものは、私を思ってくれる気持ちだけでいいのに」
芽が出ない作家志望の男が、ふっと笑った。
「おまえが、そんなしおらしいか?」
そう作家志望の男が呟く。
「ベッドの中では、生娘よ。いつだって。
試してみる?」
「止めとくよ。」
そう言うと、作家志望の男は、黙ってグラスに書かれた透明の文字を読むかのように傾けた。
赤いドレスを着た女が、ハスキーボイスで男の耳元でささやく。
「意気地無しね。
お金では買えないものが欲しいのよ。
それは、目に見えないものだけど」
そう言って、スツールから立ち上がると、ドレスがひっかかりながら、下に落ちて行った。
「金で買えないものか」
ポツリと、芽の出ない作家志望が呟く。
「だから、私は束縛されない女なの」
そう女は言って、ピアノの椅子に座ると、ビリー・ジョエルのピアノマンを弾き始めた。
作家志望の男は、己の年齢がいくつになったのか、数え直した。
第1夜 了
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