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「誰にも読まれない作家って、どういうことだ?」
「料理を作っても、客が来ないレストランみたいなものだろうな」
「最悪じゃないか」
「最悪だろうな」
そう答えて、マスターが頷いた。
「だけど、店のカウンターを叩くな。
あんたの憂さ晴らしのためのもんじゃない」
「チッ」
舌打ちをすると、男がスツールを降りた。
「どうしたんだ?」
うんざりした顔で、そう言った。
「金がもう無くなった」
マスターが、ジンロックを男の前に差し出した。
「わしの店を、客が酔えないバーにするつもりか?
1杯、奢るよ。
わしは、このあんたが飲むオーデコロンのような松ヤニの匂いが好きなんだ」
そう言って、ニヤリと笑った。
「あんたも金の貯まらない男だね」
「金を貯めるつもりなら、ここをコンビニにして、酒だけをあんたらに売ってるさ」
「つまらない話しだ」
「金を効率よく貯めるならそうなる。
だが、効率化ばかり考えていたら、まず売れない作家とは付き合わないだろうな」
男がスツールに座り直し、グラスを口に運んだ。
「マスター、急に酒がうまくなったよ」
そうポツリと言った。
第2夜 了
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