第3夜【麻美(マミ)】

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「ああっ、また男に騙されちゃった」 たまにこのバーチャンドラーに来る麻美(マミ)と呼ばれる女性が、片肘をカウンターでつきながらそう零し、グラスに入ったロックのイモ焼酎を空けた。 マスターは、彼女のためだけにメニューにはないいも焼酎を仕入れている。 マスターは、イモ焼酎を彼女の空いたグラスについだ。 麻美は、ひときわ大きな胸を持っていた。 そしていつも男に騙され、逃げられていた。 「男はつらいよ」シリーズ顔負けの恋愛パターンだった。 胸が大きい女性は、頭が良くないという実証例またいだ。 店には他に客もいないため、マスターは嫌でも麻美の応対をしなければならなかった。 「マスターも飲まない? 一人、正気な顔して前に立たれると、電車の車掌が切符の確認をしに来ているようでしらけるわ」 「イモは飲めないんだよ」 「蕎麦でも、ムギでもあるじゃない? うちが奢るわ」 マスターは、髪が薄くなり始めた頭を撫でた。 「だから、焼酎が飲めないんだよ」 「何でよ?」 「わからない。 昔は日本酒より好きだったんだが、バーボンとか、ジンとか飲むようになってから飲めないんだ」 「ふーん」 麻美は、急に対象物に興味をなくした猫みたいに少し唇を尖らせると、グラスのいも焼酎を飲み干した。
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