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「ああっ、また男に騙されちゃった」
たまにこのバーチャンドラーに来る麻美(マミ)と呼ばれる女性が、片肘をカウンターでつきながらそう零し、グラスに入ったロックのイモ焼酎を空けた。
マスターは、彼女のためだけにメニューにはないいも焼酎を仕入れている。
マスターは、イモ焼酎を彼女の空いたグラスについだ。
麻美は、ひときわ大きな胸を持っていた。
そしていつも男に騙され、逃げられていた。
「男はつらいよ」シリーズ顔負けの恋愛パターンだった。
胸が大きい女性は、頭が良くないという実証例またいだ。
店には他に客もいないため、マスターは嫌でも麻美の応対をしなければならなかった。
「マスターも飲まない?
一人、正気な顔して前に立たれると、電車の車掌が切符の確認をしに来ているようでしらけるわ」
「イモは飲めないんだよ」
「蕎麦でも、ムギでもあるじゃない?
うちが奢るわ」
マスターは、髪が薄くなり始めた頭を撫でた。
「だから、焼酎が飲めないんだよ」
「何でよ?」
「わからない。
昔は日本酒より好きだったんだが、バーボンとか、ジンとか飲むようになってから飲めないんだ」
「ふーん」
麻美は、急に対象物に興味をなくした猫みたいに少し唇を尖らせると、グラスのいも焼酎を飲み干した。
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