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❤ ❤ ❤
僕と彼女、実花ちゃんは、実は出会ったことがある。
それは、中学3年の時で、同じ塾に通っていた。
僕が通い始めたのは正月の冬期講習からで
ほんの二ヶ月ばかり。
彼女の眼鏡越しに微笑む姿が可愛らしくて、
僕は授業と授業の合間の休憩時間、
黒板を見るふりをして彼女のことを見つめていた。
肩より少し長い、フワフワシた髪を
細くて長い指で髪をかきあげる度、
僕はドキドキしていた。
彼女の斜め後ろの席にいつもいたけれど
彼女と話したことは、一度もなかったし、
志望校がどこかも知らなかった。
ただ、合格発表のその日
塾の先生に報告に行ったとき
少し離れた場所にいた彼女が笑っていたから
いい結果だったんだなぁって、分かった。
受験が終って、二度と会うことはないだろうと思っていた。
僕は内気なほうだし、
所属していた部活は美術部だし、
なんの取り柄も、ない。
彼女の中ではきっと
印象にさえ、残っていなかっただろう。
それでも、よかった。
彼女がくれた、甘い、優しい気持ちだけで、
僕は幸せな気持ちだった。
だから、4月。
念願の四高に受かって通学のため、
バスに乗ってボーッと窓の外を見ていた時、
反対車線のバス停に
二高の制服を着た彼女を見付けたときは、
心臓が、止まるかと思った。
彼女は相変わらず華奢で
僕に気付かない。
僕は、
この再会に、意味があるのではないかと思っては
またドキドキした。
それが勘違いと知ったのは、
それから間もなくのこと。
実花ちゃんは、
7時39分
このバスに乗り込んでくる直樹に恋してる。
やりきれないじゃないか。
直樹は、実花ちゃんの視線にさえ気付いていないのに。
なんで、僕は、
バスの窓越しに注がれる、
彼女のうるんだ眼差しが直樹を見ていることに気付いてしまったんだろう。
なんで、彼女は、
僕の視線に気付かないんだろう。
本当に、やりきれない。
彼女の恋する表情を見付ける度に
僕は直樹に嫉妬する。
実花ちゃんにそんな顔をさせるのが、
僕じゃないことに心臓が張り裂けそうだ。
それでも、僕は、
彼女を想う。
忘れたいと願ったところで忘れられるくらい
簡単な気持ちじゃ、ない。
ほんのり、甘い恋の気持ちは
いつの間にか胸が締め付けられる程の痛みを伴い、
それでも僕は、
見つめることしかできない、
切ない恋をしていた。
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