夏の、はじまり。

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佳苗は、幼稚園の時からあたしのお姉さん的存在で、 優柔不断なあたしは、 幾度となく、佳苗に助けられている。 中学の時、 知らない小学校同士の子が集まってきて、 あたしは別の小学校から来たある女の子に、 「ねぇ、実花ちゃんって、パーマかけてるの?」 と尋ねられたことがある。 「あ、これ、天パなんだよ。いくら頑張っても、ストレートにならないの」 あたしの髪は、一本一本が頼りないほどに細くて、 毎朝どんなに頑張って手入れをしても、 絶対ウェーブがかかる、そんな質の髪だった。 それをコンプレックスに思っていたから、 内心傷付きながらも返事をしたら、 隣の席になった男の子が、 「なんか大人っすね。いいんじゃない?」 と言ってくれた。彼は、何気ない一言のつもりだったのだろう。 でも、あたしは嬉しくなって、 「ありがとう」 と返した。 ふと、その女の子のほうを見たら、 むっとしたような表情で立っていたので、 「でも、やっぱりストレートに憧れるよ」 と、言った。 彼女の綺麗なロングヘアを、褒めたつもりだった。 でも、彼女は顔を赤くして、 返事もせずに教室を出ていってしまった。 次の日から、あたしがパーマをかけて来ていて、 性格の悪いやなやつだという噂が 教室内を飛び交った。 中心には、彼女がいた。 後で聞いた話だけど、 彼女も自分の髪型にコンプレックスがあって、 しかもあたしの隣の席の男の子のことが 好きだったらしい。 その時のあたしは、本当にどぅしていいか分からなくて、 クスクス遠くであたしを笑う女の子の声が聞こえても、 泣きそうなのを奥歯を噛んで堪えて、 黙っているしか、できなかった。 あたしは先生でも、親でもなく、 佳苗に相談した。 佳苗は、その日のうちに、彼女を呼び出して、 あたしに悪気がなかったことなんかを、話をしてくれたらしい。 具体的に、どこでどんな話をしたのか、 佳苗は言わなかったし、 あたしも聞かなかったけど、 次の日から、彼女の、あたしへの中傷は、なくなった。 それでもなんとなく、 彼女とあたしの、お互いの苦手意識は、 消えることはなかったけれども。 佳苗がいなかったら、 あたしは確実に、 いじめられていた。
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