『失くした男』全3ページ

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※ 「はい、こちらハートフルカウンセリング、お悩み相談室でございます」 「は、初めまして。あの、相談したいことがあるのですけど、よろしいですか」 「ええ、構いませんが。一体、どうしましたか。とても疲れきったような声をしておりますが」 「た、助けてください! 一週間前まで、こんなことは無かったんです、寝ていたらいきなり男の人の唸り声が聞こえてきたり、誰かがいつも自分を見ているような感覚がしたり、あげくの果てには金縛り。夜もおちおち眠れません。他の皆に相談しても、『疲れてるんじゃないの』という頼りない言葉しか返ってこないんですよ」 「なるほど、さぞかし、お辛いでしょうねえ」 「そうなんですよもう、本当に」 「まあまあ、まずは落ち着いてください。はい、深呼吸深呼吸。そのようなことが起こる原因に、心当たりはあるのですか」 「いいえ、無いから困っているんです。生れつき、あまりストレスは感じない性格だったものですから。でも今回に至っては、そんなことはもう関係ないですよね」 「それでしたら失礼ですが、最近自分の大切な人がお亡くなりになられた、とかは」 「……そう言えば一ヶ月前ぐらいに、付き合っていた彼氏が交通事故で」 「そうだったのですか。これはとんだご無礼を致しました。ご愁傷様です」 「あ、いえ。別にあんまり気にしてないですから。恥ずかしいことなんですけど、私、その時ちょうど二股をかけてて、交通事故で死んでしまった方の彼氏は、実は本命では無かったんです。彼のあまりに強引なプロポーズに、つい圧倒されてしまったような感じでして」 「なるほど。ということは、その彼についてはそれほど大きな問題ではない、と。――あれ、どうしましたか。もしもし、もしもし、聞こえますか?」 (了)
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