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プロローグ
今年も雨だった。
ゆっくりと歩いても、緩くなった土に足をとられそうになる。降り続く雨は、もう靴の中をいっぱいに濡らしていた。
線香に火をつけたところで、今回もすぐに消えてしまうだろう。
額の汗を、手の甲で拭う。
昨日までは確かに快晴だった。そのせいかやたらに湿度が高い。空気が重く感じられ、足を踏み出すのにも、明確な意志が必要になってくる。
忘れないために、ただそれだけのために。
想い出は時間とともに薄れていく。否応無く、日常の中に埋もれていく。
もう、確かに残っているのは、最後の瞬間だけになってしまった。
今にも泣き出しそうな表情だけを、かろうじて止めている。
追憶でも追悼でも追慕でもなく、もはや懺悔に来ているだけだ。
性質(たち)の悪い自虐趣味にも程がある。滑稽な自分の姿を嘲笑する。
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