奈々

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学校から帰ると、奈々は自分の部屋から大きな黒いケースを持ち出した。 ギターケースである。 小学生だった奈々は 人よりも霊感が強く、普通の人が見えないモノまで見えてしまうという悩みがあった。 一時期、相当悩んだ時もあり、何かに集中させようと奈々の母親が買い与えたのが一本のフォークギターであった。 最初は独学である程度まで弾ける様になった奈々は、中学でギター教室に行き出し、今では作曲までこなす事が出来た。 今でもたまに霊等を感じる時もあるが、好きな音楽をやっているとさほど悩まなくなっていた。 奈々は駅前の商店街の一角にあるCDショップに入って行った。 CDショップ「令光堂」は店内の奥がスタジオになっていて、奈々はそこで知り合った 日下部(くさかべ)涼太と清水恵子と三人でバンドの真似事をしていた。 歌っている時、嫌な事は全て忘れる事が出来たからだ。 将来、好きな音楽を活かした仕事をしたいというのが奈々の夢だった。 二時間程の練習を終えた奈々は後の二人よりも先にスタジオを出た。母親が仕事から戻る前に夕食を作らなければならなかったからだ スーパーで買い物をしていた奈々は呼び止められた気がして振り返ると、そこには渡辺薫とグループの倉田美香が立っていた。 「へぇ、あんたギターやってんだ。」 とっさにギターをかばおうとした奈々に薫は 「壊されたく無かったらこれ、その服の下に隠しな。」 そう言ってそばにあったファッション雑誌を奈々に差し出した。 またドキドキと心臓が早くなるのが分かった。 薫と美香はレジの向こう側でニヤニヤと様子を伺っている。 奈々はギターを壊されたく無い一心で、その雑誌を洋服の下へいれようとしたその時‥ 「だめだよ。」 奈々の手を掴んだ者がいた。 店員に見つかってしまったと、恐る恐る顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。 「江野本さん‥」 同じクラスの江野本響子が立っていた。 「行こ。」 そう言うと響子は雑誌を元に戻すと、レジのそばに立っている薫と美香を睨みつけながら奈々の手を引き、店の外へと出た。 .
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