奈々

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次の日、奈々はバンドのメンバーと待ち合わせをしていた。 「奈々、ごめん待った?」 メンバーの児島弥生と西島涼太だった。 三人は いつも練習場所にしているCDショップ「令光堂」へと向かった 「おお、もうすぐライブだね。」 そう言ってきたのは 少しハゲた頭に口髭を蓄え、エプロン姿の親父が令光堂の店長である。 「親父さん、こんちわ。」 西島涼太が挨拶を交わした 奥のスタジオに三人が入ろうとした時 「奈々ちゃん」 親父さんが奈々を呼び止めた。 振り返る奈々に 「夢‥叶うといいな」 「‥はい。」 奈々は大きくうなずいた。 フォークグループ 『CLOSED』 は奈々がリードボーカルとギター、児島弥生がパーカッション、西島涼太がキーボードで構成されていた。 奈々の詞に涼太が曲をつけ、全てオリジナルの曲を歌った。 今回、初のライブという事で皆、練習に余念がなかった。 ギターのチューニングを終えると、マイクスタンドの前に立つと、奈々の表情がガラリと変わった。 そこには薫達にいじめられている奈々はいなかった。 静かなギターの音色が響くと同時に奈々は歌い出した。 あなたと歩いた夕暮れの道 少し先を歩くあなたを追いかける いつも通る道なのに 二人で歩くと景色が変わる 早く来いよと笑ってみせたあなたの横顔が 沈む夕日に溶け込んでゆく‥ ライブで歌う予定の曲を数曲練習した。 実は奈々には書きかけの詞があったが、途中でどうしても納得できず、未完成のままにしていたのだった。 .
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