88人が本棚に入れています
本棚に追加
ボロい店の主人らしき女は、語りかけてきた客人にサラリと言ってのけた。
「…不思議…ですか」
客人は怪訝な面持ちで復唱する。
無理もないだろう。此処の女主人は、かなりの胡散臭さなのだ。
雨宿り目的で寄らせて頂いた骨董屋らしき店。
店主は久しぶりの客人に嬉々として語る。
まさかこんな話で盛り上がるとは思わなかった。
『不思議ですよ御客人。世の中、摩訶不思議で満ちているんです。』
さながら、舞台俳優のように。左手を大きく振りかざす。
『素晴らしいと思いませんか!御客人!
私はね、彼らの話を聞く迄は、不思議とはせいぜい幽霊迄と思っていたのですよ。』
饒舌な店主の言葉に客人の心が踊った。この女性は一体何を言うのか全く想像がつかなかったのだ。
まるでビックリ箱の前で構える子供のように、客人は差し出された椅子から立ち上がり問い掛けた。
「か、彼らとは一体誰なんでしょうか」と。
その質問を待ってましたと言わんばかりに店主の口が三日月型に笑った。
『居ますよ。此処に。』
客人は廻りを見渡した。
しかし目星き存在は居ない。在るのは古びた人形と骨董ばかり。
『解りませんか?
聞こえませんか?』
客人の表情がもしやと固まった。
『気付かれました?』
「ま、まさか……人形?」
『そうです。』
「か、からかわないで下さい!!」
『おやおや。何を今更…。貴方は気付いたではありませんか。
…彼らはね、生きて私に語りかけてくるのですよ。
そして、貴方にも…
不思議…でしょう?』
店主の視線と人形の視線に挟まれ、客人の体は震えていた。
『今のように硬い関節になる前の昔話を、ゆっくりゆっくり語ってくれるのですよ。
私は、ただそれを拾うだけ…』
店主は、客人の震える手を両手でしっかりと握りしめた。
『大丈夫。怖い話ではございませんよ。
私達が見るのは彼らの人生の、ほんの一欠けらなのですから。
いわば…
少し哀しい
小話ですよ……』
客人は握られた手を見詰め、椅子に腰を戻した。
人形達が何故人形になったのか店主にも分からないという。しかし話を聞けば分かるかもしれないのです。…客人は、半ば放心状態になりながら死ぬに死ねない者達の、不思議な世界の話に耳を傾ける事にしたのだった。
外は雨。
未だ止みそうにない。
最初のコメントを投稿しよう!