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「まいったな、まぁた振られちまった。全く何がいけないのかね。これでもう何人目だ?ええっと、裕子に、佳子に、恵子に、徹子に、かめにうしに、とら。くそ、まだ4月だってのに、今年に入ってからもう8人か。マグワイアのホームランじゃねぇっての。
俺のいったいどこがいけないってんだ?そりゃ確かに、貧乏だからいいとこへは、連れてけない。でも、愛があればどこに行ったって楽しいんじゃないの?
ま、確かに目黒寄生虫館はまずかったかもしれない。そのあと3日間ぐらい、飯がノドを通らなかったって言ってたもんな。サナダムシ見た後で、うどん食おうっていうのもヘンなのかもしれない。
でもなぁ、向こうから付き合ってって言ってきたんだぜ。なのに、何だよ。何で俺が振られなきゃならないんだ!
くそ、なんか腹の虫が収まらない。自転車の空気でも抜いて回るか。でも、小学生じゃあるまいし、そんなことしてもなぁ…。
あ!そうだ。そういや、裏の大家さんが、困ったことがあったら、いつでもおいでって言ってたな。なんか食わしてくれるかも知れないし行ってみるか」
「こんちわぁ、大家さん。……。返事がないな。年寄りは耳が遠いからな。
もっかい。こんちわぁぁ!……。……。留守かな?
いないんですかぁ!いないんなら、金目のモン持って帰っちゃいますよ。それとも、死んじゃってるんですかぁ!」
「誰だい誰だい、縁起でもないこと言ってるのは…」
「あ、生きてら」
「当たり前だ。おやおや、誰かと思ったら、裏のアパートの山崎亮君、21歳大学生じゃないか」
「そんな説明くさい…。あ、こんちは」
「どうだい、大学生活の方は、楽しいかね?」
「はぁ、まぁ…」
「どうしたね、ま、ここじゃなんだから、上がりなさい」
「はい、じゃ、失礼して」
「ばあさんや、ばあさんや、裏の山崎君が来たから、何か出してやってくれ。タクワンとお茶?そんなもの、若い人が好むわけないだろ。じゃ、タクワンとコーヒーって、なんちゅう組み合わせだ。何かないのか、他に。ああ、この間ケーキをいただいたろ、あれ、食べてなかったんじゃないか?え?ある?でも、もうひと月も前のことだって?かまやしない、若いから大丈夫だよ。黙ってりゃわかりゃしない」
「…、全部聞こえてますよ」
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